長女との入れ替えゲーム by ダースレイダー


長女は今、11歳。
近所のコンビニやスーパーに行く時もとにかく会話するようにしている。
なんとなく見つけたきっかけから会話を始めて、やり取りを重ねて行くのが楽しい。

ある日、2人で近所を歩いていた。

見上げると電柱に雀が止まってチュンチュン鳴いている。

僕は「あそこに雀いるでしょ?雀になってさ、こっちを見たら僕らはどんな感じかな?」と聞いた。
長女「ううん、そもそも見てるかな?あ、でも人間は食べ物くれたり落としたりするしね。なんか食べ物くれる生き物?」
僕「そうだね。あまり雀をいきなり捕まえる人も街にはいないし、石投げたりも少ないから警戒はしないかな?」
娘「でも、雀小さいからね。こんなでっかいの近づいてきたらとりあえず怖いっしょ」
こんな感じである。

少し進むと野良猫が寝ている。

この猫は怪我したのか足が3本しかないので娘は”サンちゃん”と呼んでいる。
長女「お、サンちゃんが寝てる」
僕「サンちゃんから見たら僕らは?」
長女「私は友達だよ!近所のおばちゃん達と一緒にご飯あげたりもしてるし。パパは知らない人間だから怖いかも」
僕「サンちゃんからは見分けはちゃんと付いてるよね?」
長女「そりゃそうでしょ。匂いとか雰囲気が分かるし、それで友達かどうかも分かるんだよ」
僕「人間は何してると思ってんだろね?」
長女「猫から見たらやたら人が急いで歩いてるの、変に思ってるかもな。猫って基本のんびりしてるでしょ」

近所にはゴミ焼場があり、大きな煙突がある。

僕「あの煙突になってみよう。あいつからは僕らや街はどう見えてる?」
長女「ええ?生き物じゃないじゃん。目、どこにあるんだよ!」
僕「ほら、てっぺんのとこに小さい窓みたいなの。あれ、目じゃない?」
長女「ううん、煙突は動けないからずっと見えてる景色は一緒だよね。で、そこを人が歩いたり車が走ったり・・・」
僕「朝になったり夜になったり」
長女「学校通ってた子供が大人になって、ね。あ、パパもずっとここ歩いてたんでしょ?」
僕「そうだね。パパのパパとママも歩いてたのを見てるだろうね」
長女「いやあ、飽きるかな?でも逆に楽しいか。わかんないや」

これを僕らは視線入れ替えゲームと呼んでいる。
次女は5歳で、このゲームをやろうとすると長女が「まだわかんないと思うよ」と言っていた。
僕「じゃあ、太陽が今夕暮れで落ちていくよね。太陽になってこっちを見たら?」
長女「ええ、でっか!流石にうちらは小さくて見えないでしょ。ってか地球丸ごと見えてる感じ?」
僕「そうだね。僕らは太陽を見てるけど太陽からは僕らは小さくてわかんないだろうね。僕らも小さな虫とか気づかなかったりするし」
長女「お互いちゃんと居るのに見えてるものは違うんだよねえ」

このゲームをカラス、犬、電柱、学校、電車・・・とやっていく。

するとこの世の中は本当にいろんな視線が交差していて、それぞれが見てる景色が折り重なって世界が浮かび上がってくるのがわかる。
お互いに目的もわからないまま、あちこち移動したり止まったり。
そんな中で僕と娘はコンビニでジュースを買って家に帰る。
サンちゃんは片目をうっすら開けてそれを見ている。
道の端っこの土には団子虫がゆっくり歩いていた。

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