先日観たマッツ・ミケルセン主演の映画「アナザーラウンド」で印象的なシーンがありました。デンマークの学校で教鞭をとるマッツが生徒に対してこんなクイズを出します。*1
「有権者として政治家を選べ。今から例にだす3人の政治家のうち誰に投票する?」
「1人はマティーニ好きで、いつも酔っ払ってる。しかも女好きで浮気三昧でテンションが高い男。2人目の男は完全にアルコール中毒で、就寝前にウォッカと睡眠薬を飲んでいるヘビースモーカーだ。3人目は酒もたばこもやらないし、女性関係も良好。しかも子供や動物を愛し、礼節のある政治家だ。この3人のうち、誰を国のリーダーとして選ぶ?」
当たり前のように1人目、2人目はありえないので3人目を選びますよね。こういった問題にありがちな3人目が実はやばいやつだった。というのは置いといて。
そして、先生であるマッツはこう言い放ちます。
「1人目の政治家はフランクリン・ルーズベルトだ。アメリカを勝利に導いた大統領だ。」
「2人目はウィンストン・チャーチルだ。著名なイギリスの首相だ。」
「3人目の清廉潔白なやつはそう、アドルフ・ヒトラーだよ。」
このシーンから分かることはマスで取り上げられる為政者の姿なんて全く信じられないし、清廉潔白な人間が必ずしも良い政治家ではないということ。またぼくたち有権者が、いかに表層的なイメージだけで政治を語ってしまってるかということです。(酒飲み映画のワンシーンなので本当は酒を肯定したいだけのシーンではありますが)
日本の投票率はなんと世界で139位です。*2
先進国でありながらもこんなにも不名誉な記録ってありませんよ。
編集部の友人の中にも何人か選挙に行ったことがない人がいたので、「なぜ行ったことがないのか」をヒアリングをしてみました。
「大きな理由は住民票が今自分が住んでる地域(東京都)に移されていないからです。不在投票するにしても手続きが面倒くさい。しかし選挙や政治に興味がないわけではないです。各党がどのような公約を出しているかは見ています。しかしそれも結局今住んでる東京都の方に目がいくし、地元の北海道の方は軽くチェックするくらい。でも大学生になって上京してから一回も投票していないことは余計に選挙や政治に対する興味を薄れさせてしまっていると思う」(23歳 大学生)
「自分が選挙に行ったところで何も変わらないから。前回の選挙の話ですが、かなり自分も自分の周りも選挙に興味を持って臨んでいた。自分たちが政治に関わる権利と義務があると思って、一国民としての意識も強くあった。しかし、前回、投票率も悪いままだったし、政治体制にも何の変化もなかった(結局自民党)。自分が持つ力や影響力がいかに小さいのかということを痛感してしまった。今までで一番積極的に臨んだということもあって、落胆してしまい、選挙を頑張る意味が分からなくなってしまいました」(25歳 出版系会社員)
「昔、隣に住んでいたおじさんが市議会議員で、選挙が近くなると家族で手伝いに行かされてた。
父親は一票の重みを知ってる人だったんだと思う。選挙権が家に届くと投票しに行くことをめちゃくちゃ促されてた。
でも地元を離れて、選挙に行かなくなった。
行く意味がわからなかったのかも。投票は自分たちの義務だって、考えもなく投票していたら、政治に対して影響を与えている実感が湧かなくて。
でも今回は、意思を込めた一票を投じようと思ってる。
自分には将来やりたいことが見つかったし、そのために政治の力無くしては叶えられないと思っているから」(36歳 アパレル系会社員)
この3人の方の意見はとても貴重です。不在者投票制度などのスキームの問題もあるけど、政治が自分や大切な人の生活に直接関わっているという事を想像するのがとても大事なんだなと感じました。
はたまたそんな大それたことを意識しなくてもゲーム感覚で投票するのもありだと思っている。
お酒片手にお祭り気分でその日の開票を見守る。ハロウィーンをあそこまでぶっとんだ文化に昇華させる力があるなら出来るはず。
選挙への意識を根本的に変えるには、どの政党を支持してる?と言い合える空気を醸成することが、一番の近道ではないかと思っている。
ほんとうに手っ取り早い。インフルエンサーや芸能人が公言することが理想だけど、身内にも内緒にしなければいけない空気はまじでやめたほうがいい。それをきっかけにまたあーだこーだディベートすればいいわけだし。
ぼくは選挙権が与えられた時から欠かさず投票に行っています。
当日デートがあれば期日前で投票するし、昼飯食べるついでに政治に参加でもしてやるか的なノリでやってます。そんなノリでいいんです。
自分の選挙区の人はどんなマニュフェストかな?
夫婦別姓には?マイノリティへの考えは?経済政策、特に消費税に対してどう考えてるの?ぐらいは調べていくとほんとにサクッと投票できます。
話しは少し変わって、とあるオンラインサロンが三度の飯より大好きなメディア会社の人間と飲んでる時に、社会人の政治へのコミットについて話しました。
「政治は語らない主義なんだよね〜」ってすまし顔でいた彼の表情を今でもよく覚えてます。しかも前総理大臣の菅さんが打ち出したスローガンである「自助」をかなり大事にしていた印象です。
この社会というサバイバルゲームであがってこれないやつはクソでしょ。といった感じです。
その自己責任論主義者は政治なんてコミットしても意味がないという端的な結論から、政治への不参加がリアリズムでクールな行為なんだと思ってるみたいでした。
現に昨今の正しさを過剰に追い求め、身内だけで教祖をつくりだし、オンラインサロンでマスターベーションしている人たちは「革命」や「革新」という言葉が大好物なのにも関わらず、何故か変わろうともせず政治へのコミットを避けている印象です。
誰しも教祖的な存在はもちろん必要なんだけども、唯一無二の依存先をつくるよりたくさんの依存先を作ったほうが合理的です。自立を促すロジックでも使われていますね。
彼に投げたい言葉としてROTH BART BARONの「ショッピングモールの怪物」の歌詞から引用すれば
「そんなとこ早く抜け出しておいでよ、そこには君の欲しい物など一つもないから」という言葉を投げたいです。
というか一つぐらい見つけてさっさと違う依存先探しなよってことです。
政治への不参加がクールだと思ってる人は全然クールじゃありません。
選挙は超簡単にできる権利行使です。
もしかしたら自分の生活に影響が出るかもしれません。
大好きなあの人の助けになるかもしれません。
仮装の日、10月31日の日曜日、選挙に行こう。
追伸
同時に最高裁判所裁判官の国民審査も行われます。
各裁判官が夫婦別姓や一票の格差についてどのような判断を下しているのかが、
ひと目でみてわかるサイトをNHKが作ってくれています。
とても素晴らしいサイトなので是非チェックして参考にしてください。
https://www3.nhk.or.jp/news/special/kokuminshinsa/2021/
参考資料
*1→tbsラジオ「たまむすび」町山智浩氏 解説「アナザーラウンド」
*2→FNNプライムオンライン https://www.fnn.jp/articles/-/258812
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