映画『シン・ちむどんどん』ダースレイダーが語る沖縄と民主主義


「選挙は最高のお祭りだ!」を合言葉に、選挙に野次馬参戦するラッパーのダースレイダ ーと時事芸人のプチ鹿島。この異色コンビ の YouTube 番組「ヒルカラナンデス(仮)」が人気を博し、そのスピンオフとして公開された『劇場版 センキョナンデス』。観客動員数はドキュメンタリー映画のヒットの基準と言われる1万人を超え、スマッシュヒットを記録した。

映画第2弾となる本作の舞台は沖縄。知事選から物語は始まる。SNS上に溢れる「沖縄と選挙」を取り巻く膨大なデマを問題視し、候補者に直撃する。そして二人は選挙戦の争点となった「基地問題」について現地の人に話を聞こうと、座り込み抗議がおよそ3000日続く辺野古の現場を訪れる。ダースレイダーはそこで即興のラップを披露。音楽と共に闘う沖縄の人々とのコラボが実現した。


今回THEY SAYでは、ダースレイダーさんに映画を制作した経緯や、大きな見どころの一つである辺野古の座り込み現場での即興ラップの場面などについて伺いました。


――よろしくお願いします。映画を試写で拝見しました。まずは前作とは異なり、前半と後半で大きく分かれた構成にした理由について伺いたいです。


日本が民主主義国家だとすれば、選挙で民意が確認されてからその先に進むはずなのに、沖縄の場合だと県知事選が終わっても何も変わらないところがポイントだと思います。しかも今回に始まったことではなく、翁長さんや玉城さんが知事になったとき、そして県民投票という民主主義的な行為でも何も変わらない。
その変化のない状況を放置しているのは、日本全体の問題だと思ったんです。映画の前半の選挙戦もエネルギッシュで面白いんですが、あれを経て状況が何も変わらないという現象は一体何だろうという疑問を後半で描くことが大事だと思いました。


選挙期間中に辺野古で取材をした後に、ひろゆきさんがABEMA Primeの番組企画で辺野古に行き、座り込みの定義云々という話でネットではある種の炎上が起きていました。ネットでそういった言説が飛び交う様が、選挙の中でも起きていることは映画の中で指摘しています。本人は自覚していないけれど、沖縄に対して明らかに差別的な態度で臨んでいる人がネット上にはたくさんいて、それがひろゆきさんのツイートをきっかけにより可視化された気がします。


こうした状況に対して、現地の人たちはどう受け止めているのかを確認したいと思い二人で追加取材に行きました。使われている素材自体は全体の中では少ないのですが、映画の構成は追加取材を経て様々な話が聞けたので、引き受けてくれた方々の思いや意見がうまく反映されていると思います。


『センキョナンデス』の時もそうでしたが「こういった順番で並べたらどうですか?」のような叩き台は一回投げていて、僕のラップをどこに入れようか等のディスカッションは幅広くさせてもらいました。


――沖縄問題の根底には差別が存在するという描写もありましたね。


選挙戦で分かったのはやはりネット上のデマですよね。検索ワードを沖縄県知事選で設定して情報を追っていると、あまりにも多くの誹謗中傷やヘイト発言が平気で行われていています。しかも多くは沖縄にはいないであろう人たちから寄せられていました。基地を容認だろうが反対だろうが、そういったネット上のノイズがひどい状態で常に蔓延っていたんです。


以前行われた奈良県知事選でも、こういったヘイトが選挙のタイミングで可視化されます。沖縄はその中でもちょっと異常なレベルでヘイトが散見されていて...。実際目にしている選挙戦は各候補とも炎天下の中必死に思いを訴えていて、それぞれのスタンスで頑張っておられるわけです。でもその背景にドンと広がっているこのノイズ空間は一体何だろうかと感じていました。そしてそれを映画の主なテーマにしていこうとプチ鹿島さんと話し合いましたね。


――ダースさんとプチ鹿島さんはプレスリリースでも共通して、何も知らないという立場から“知ること”の大切さを強調していました。いわゆる「ネット上の人たち」は現場を把握しようとしないのに、なぜそういった冷笑的な態度が取れるんだと思いますか。


ちょうど僕が今読んでいる小野寺拓也 (著)、田野大輔 (著)『ナチスは「良いこと」もしたのか?』(岩波ブックレット)の中では、「ナチスは良いことをした」という言説がなぜ繰り返し出てくるのかを検証しています。この本に書かれているポイントは「事実性」「解釈」「意見」という3つの層があるという説明です。


まず、何かが起こったときにそれを周りがどう受け止めたか、どう報じたかという「事実性」の段階があって、その後「解釈」という段階があります。事実に対して学者やジャーナリスト、批評家がその起こった事実はこういうことですよ、と考えて発表する作業ですね。学者だったら歴史上の出来事は背景や文脈でこのような動きになりましたとか、ジャーナリストだったら調査報道をして周辺取材をした結果、この出来事はこうであると発表する。そうしたものの後に「意見」が生まれてきます。


だけど最近は、解釈の部分が非常に軽視されていて、なんだったらすっ飛ばすんです。それで事実に対して直接意見を言う。あるいは非常に偏った1つの解釈に基づいて意見を言う人も多いですね。背景には学者が言っていることなんか嘘だとか、マスコミはマスゴミだとかそういった学問やジャーナリズムに対して嫌悪する態度があります。


解釈の部分がごっそりと抜け落ちている場合、何を信用するかというと自分の直感になりますよね。「自分は分かっているんだ」っていう思い込みから、ネット上の発言やYouTubeの動画から情報を得て端的に意見を言ってしまう。SNSはそういった行為と相性がとても良いですよね。それ以前は多様な文献を読み、そして報道をみて、ある一定程度考える時間があったのですが、最近は瞬時に反応して何かしら言えてしまいます。 


――一般の方より政治家の方がむしろ解釈を軽視していますよね。


学者やジャーナリストを敵だと認定することによって、解釈で否定されるような政策や考え方を「いやマスコミは嘘ばっかり言ってるから」、「学者なんてのは信用できないから」と言って自分のスタンスをパワーアップさせてごまかしているんだと思います。


特にトランプさん的なポピュリズムのスタンスは、自分に対して突っ込みを入れてくるマスコミや学者は嘘をついていて信用できない奴らだと豪語して、そうしたロジカルな突っ込みを無力化させる構造なんですよね。


――それを聞くとダースさんやプチ鹿島さんは現場で話を聞くという、「知ることの大切さ」をテーマにしているように感じます。


 例えば鹿島さんが重要視しているのは解釈の幅です。何かが起こったとき、その事実に対する解釈が、朝日、毎日、読売、産経でだいぶ違う見方がある。そういうことを知っておくと、少し立体的に物事を捉えることができる。さらにいろんな解釈が出てきて、少し時間が経つと事実が固定化していきます。それでも全部はわからないのですが、なんとなくであっても全容が掴めてきて、浮かび上がってきたものに対してようやく意見というものを言うことができるんです。


沖縄に関しても、僕らは意見を言う前の段階だと思っていたんですよ。なんでこんなに座り込みを続けているのかとすごく違和感を感じていたとしても、それに対する背景や文脈というものの事実を知って、解釈を探っていくということが必要なんです。その行為こそがこの映画のスタンスになっているんだと思います。


――リリースには「沖縄の選挙はお祭りだから」とアドバイスがあったと書かれていましたが、有権者の熱量はどうでしたか?


想像とは全然違いましたね。実は公職選挙法では違反にあたるのでは?というものも多いんですよ(笑)。自分の車の上にのぼりを立てて走らせたりしてるんです。だから沖縄の交差点には見渡す限りズラーっと並ぶんですよ。のぼりが。街宣活動があるとすごい数の軍勢が現れたかのような、のぼりの山が現れるんです。


街宣車も本当は登録した選挙カーを使わないといけないんですけど、トラックの荷台に竿を差して、そこに候補者の名前が書いてあるような、野良街宣車を使っていたりするんですね。さらに手作りのうちわやパネルを作って、集まっている人に配ったり、とにかく他の地域の選挙とは比べ物にならないほどの熱気でした。


――沖縄の方々には問題が山積されていて、選挙にコミットしなければいけないという気持ちがありますよね


民主主義というのは主権者が自分たちの思いを反映できる政治システムですよね。沖縄の人は自分たちの思いがしっかりと反映されるはずだという信念を持って参加している人が多いんです。しかし、現状それが裏切られ続けてもいるんだと。だとしても裏切られて諦めて、ギブアップしてしまうのではなく、それでもやるんだという力強い当事者意識があると思うんです。


――ラップにレスポンスをくれた方々も自分たちで歌を作っていました。そうしなければならないほどの問題があるんですね。


復帰50年というタイミングでの取材だったんですけど、復帰以前はアメリカだったんです。つまり、日本人として自分たちの住んでいる場所のルールを自分たちで決めていいんですよという、ある種の民主主義社会を獲得する経験を、少なくとも沖縄以外の人に比べて明確に持っているわけですよね。植民地だったので。


映画の後半ではアメリカの植民地から復帰したけど、そこからどういう扱いを受けていたのかという部分が問題になってきます。沖縄の人たちは経験上、民主主義がなんで必要かということをわかっているんですよ。だからこそ僕らはそれを学ばなければいけないはずなのに、差別的な態度を取る人が多いんです。


――冒頭とラストのラップのシーンが映画のキーとなっています。リズムもライミングも巧みだと思いましたが、改めてご自身のリリックを読んだ感想をお聞かせください。 


即興なんでね、本当にあの瞬間は痺れますよね。高里さんの話を聞いた後なので、絶対に失礼があってはいけないという覚悟はありましたね。始まってからはあんまり覚えていないんです。ラップをするつもりであの場所に行ったわけでもなかったので、用意していた言葉は一語もなかった。でも「ラップしてよ」と言われて「できません」という選択肢はないじゃないですか。


僕は自分が即興でやったものは振り返らないので、見直すと非常に恥ずかしいんですよね(笑)。でも、文字起こしされたり映像を編集する過程で何回も観て、まあまあ頑張ったなと。あの場所で高里さんをはじめ、座り込みをしている人の後ろで警備の方に向かって、自分が伝えるべきことはラップできていると思いました。ライミングに関しては即興でやったわりには結構良くできていたと思います。


――とても格好良いライミングでした。


ありがとうございます!ツウの人はこことここのワードでこう踏んだとか、そういう部分を楽しんでいただければ。これが即興の醍醐味ですからね。 


――全体的にこの主権は誰のものなんだ?とラップされていると思います。沖縄以外の場所にいる私たちにも当事者意識を持たせてくれる。ポスターにも使用されている「ハロー民主主義」は、この映画の肝だなと思いました。


あれはよく出たなと思いますね。目の前にあるのはね、アメリカですから。「そこから始まったんじゃん!」っていう。それで、「この状況かい!」っていうのは、我ながらよくラップしたなと思います。


――警備の方がいることで、物理的な壁ができていましたね。


 僕なんかはふらっと行って、お話を聞いて5分のラップを1回して、というだけでしたけど、現地ではずっと続いているということを想像してほしいなと思いました。「座っていないから0日だ」とかは、僕にはとてもじゃないけど言えない。

 それ以前からずっと問題は続いているわけなんです。沖縄国際大学の前泊(博盛)さんから聞いた話なんですが、もっと前からアメリカは非常に巧みな統治戦略を持っていて、計画的にいろんなことを決めている。日本は主権国家になれていないんだなということがわかってくるんですよね。それが形となって現れているのがあのゲート前なんです。僕もあの短い時間に少し居ただけなので、体験したことはわずかではあるけど、すごく考えさせられました。


――警備の方々へのズームアップのシーンで彼らの気持ちにもなれる感じがします。


あそこにいる人たちが、もし日本国籍を持っている主権者であるとするならば、投票日には投票に行って、一緒に社会を作っていく人たちの一員なわけですよね。こういうことも想像するのが僕たちができる大事な一歩なんだろうと思いました。 


――ダースさんのラップのコールに対して、素敵なレスポンスがありましたね。


元々、座り込んでいる方々がそこで歌を歌いながら抵抗しているというのはあったですよ。そこで僕のラップに対してのアンサーソングっていうのはね、素晴らしかったですね。


――とてもヒップホップ性あふれる感動的な場面でした。また、公開は8/11からですね。


コール&レスポンスみたいな感じでね。そう、8月11日。ちょうどヒップホップ 50周年の日なんですよ。たまたまではあるんですけど、 ヒップホップの誕生日。ヒップホップの考え方やヒップホップ的な経験をしてきたおかげで、ああいったパフォーマンスができたと思っているので、そういう意味ではヒップホップに感謝ですね。


――最初は配信での公開なんですね。


最初は配信と、沖縄の桜坂劇場で公開。それからポレポレ東中野とCINEMA Chupki TABATA、京都みなみ会館が 8月19日に公開です。夏に公開したいというのがあったのでこのスキームになっています。


――桜坂劇場と配信での公開に特別な意味がありますか?


沖縄の人にも観てほしいので、沖縄でスタートさせたいというのがありました。それに配信ということは世界中で観ることができる。沖縄から世界に発信するっていう形にしたかったんです。発信している最初の場所は沖縄で、公開したものが配信に載って全世界で観ることができるという構造になりますから、すごく大事だと思っています。 


――公開初日にはトークイベントもあるんですね?


 8月11日桜坂劇場での上映後、Outputというライブハウスに移動してトークライブをします。LOFT PROJECTでは本編配信チケットと、配信トークライブチケットを購入することができます。

https://www.shin-chimudondon.com/

『シン・ちむどんどん』8月11日から公開しております。ぜひ、劇場や配信でご覧ください。 

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