「怒りを抑えきれず歌いました」ドイツのアーティストとロシアのアニメーターの今。

Ghaku Okazakiはドイツ在住のアーティストだ。


美術大学時代からの仲で、ぼくの親友でもある。
絵に彫刻、音楽と多岐に渡る活動をしている。


プーチン政権のウクライナ侵攻で目まぐるしく世界が動いている最中、
彼からこんなメッセージが届いた。


怒りを抑えきれず歌いました。反戦ソング

彼から送られてきたYouTubeのURLをクリックし、聴いてみた。


「ドイツ語のラップだったので、内容を理解することは難しかったが鬼気迫るものは伝わってきた。」
という返事しか出来ないな〜・・と悩んでいたが、その後YouTubeのディスクリプションに日本語訳がUPされたので事なきを得て、すぐさまこの曲をTHEY SAYに掲載することにした。


また、下記に彼からのメッセージを掲載しているのでぜひ読んでほしい。
この日本でも権力に対する表現規制のムーブメントは珍しいものではない。表現者やそれらを観賞し人生を豊かにしたい人達からしたら他人事ではないだろう。


(下記からGhaku Okazakiによるテキストです)

「表現の自由も、国民の金銭も、すべては略奪され、戦争に利用される・・・『ズル賢いシステム』」


2月26・27日の週末、ロシア出身のアニメーターによる小さな反戦運動があった。ロシア国内外に住む80人以上のアニメーターが、それぞれ5秒間のショートアニメーションを作成し、ソーシャルメディアに投稿したのだ。
ロシア語で#нетвойне (戦争反対)というハッシュタグをつけたアニメーションは、プーチン大統領の顔や戦車のイメージを描いて直接糾弾するものもあれば、ウクライナの国旗を掲げるものや、また花や鳩をちりばめたものもあり、多種多様だ。
才能あるクリエイターたちが作ったアニメーションは、アートやポップカルチャーの優しく華やかな彩りをもって、時に目を覆いたくなる現実からひとときの安らぎを与えてくれ、時に力強く反戦の声を上げた。


そんなショートアニメーションたちが、公開から数日も経たないうちにソーシャルメディアからそのほとんどが姿を消した。

どういうことかと思い、ぼくはその運動に参加していたアニメーターAさん(サンクトペテルブルク出身、ドイツ・ライプツィヒ在住)に連絡を取った。
彼女はこう答えた。「政府が取り締まりを強化している。わたしたちが外国にいようと、罰金を請求される。わたしたちはアニメーションを削除せざるを得なかった。」
そしてこう続ける。「大きな金額だが、お金を取られることが嫌だったんじゃない。今はわたし達が反戦の声を上げるほどに、罰金を取られる。つまり反戦の声を上げることが、即戦争を支援することになってしまうということなんだ。これは政府の、悪どい、『ズル賢いシステム』だ。」


Aさんの両親はロシア国内に住む建築家だ。両親は以前から反プーチン・反戦の志を持っており、今回もウクライナへの侵攻が始まってすぐに、芸術家同士での反戦運動に署名参加した。
するとそれから数日も経たないうちに、高額の罰金を請求された。断れば投獄だ。Aさんはそのことに衝撃を受け、自分のアニメーションも削除せざるを得なかったという。


AさんはEU諸国の国際賞を総ナメする、将来有望な実力派若手アニメーターだ。しかし、ウクライナ侵攻以前にすでに招待されていたポーランドの国際賞は彼女の招待を取り消した。「ロシア系の名前がプログラムに並ぶのはイメージが悪いから」だという。「わたしは政治家でもアクティビストでもない。好きなアニメーションも禁止されたら、もう何をしたらいいのかわからない。本当に戦争をやめてほしいけど、声を上げるすべが見つからない」と語るAさん。ぼくには「とにかく生きてさえいれば、きみが自由に作ったアニメーションを自由に公開できるようになる日がきっと来る。今はドイツでできるだけのことをやろう」と励ますことくらいしかできなかった。


毎日何物にも代えられない尊い人命を奪い、人々の恐怖心を煽り、国民の生活を制限し、言論の自由も表現の自由も奪う。プーチン政権の卑劣極まりないやり方に、ひとりの人間として、また平和を愛する美術家のひとりとして、とてつもない怒りを感じる。

しかし大っぴらにこんなことを書けるのも、ぼくがロシア国籍の保持者でないからだ。

こんなことが引き続き許されていいはずがない。ドイツや、日本にとってももはや彼岸の火事ではない。


美術は人間の心のためにある。創造的な営みは人間性の醍醐味だ。しかし何年もかけて作り上げた素晴らしい芸術作品も、爆弾で破壊するのは一瞬だ。アフガニスタン・バーミアンの仏像のように、むき出しの暴力の前に芸術は無力だ。
それでもぼくたち人間は、命がある限り歌を歌い、絵を描くことができる。その心の自由は絶対に奪えない。なぜならそれこそが、人間の心の、自由の本質だからだ。

人の命を、心を脅かし、恐怖で縛り付ける戦争の暴力を、ファシストたちの弾圧を、ぼくらは決して許してはならない。


(Ghaku Okazaki・美術家、ドイツ・シュトゥットガルト在住)


筆者の音楽プロジェクトGhaku & The Phenomenalsによる、
ウクライナ侵攻に対するプロテストソング(ドイツ語)。
ドイツおよび西欧に充満する怒りと悲しみと危機感伝わればと思い歌った。


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