桜が咲き始めた極寒の春の日。私は友人とDJが操るaikoの『花火』を聴きながら踊っていた。友人3人でフェスに行ったときの話だ。
この『THEY SAY』の編集長(もしこの先出てくることがあれば、以下:編集長)に「友達について書いてほしい」という依頼を受けた。友達が少ない私には中々の無理難題である。しかし、私は編集長とは友人であると思っているので、共通の友人のことを書いてみようと思う。
20歳年下の友達ができた。会社のバイトの子だ。好きな物が似ていた。彼女と仲良くなるのにどのくらいの年月を要したかは、記憶にない。
私は極度の人見知りだ。だから、別れより出会いの季節の方が苦手だったりする。春になると学生達がバイトにやって来る。少し気合いが必要だ。大人の余裕をちょっぴり出しつつ、みんながリラックスできるように振る舞えるように行動できたらいいなぁ、と思いながら(できているかどうかは別の話で)過ごす。だけれども、私には大人に必要なあれこれが年齢に伴っていない。年齢と中身がイコールにならずに年齢を重ねてしまった。だから、私にとっては意味を持たぬものになってしまったのだ。燃えないゴミの日に年齢(という概念)を捨てた。そんなもの持っていないので気にせず適当に接してもらえるとありがたい。
話が逸れてしまったので戻します。
昔の携帯はアンテナが外れて、着信があったときにキラキラ光るやつに取り替えられたことも、家の電話には小さなカセットが入っていて、それに留守電を録音することも知らない。ドラえもんだって(大山)のぶ代じゃなくて(水田)わさびの声で育っているのだ。彼女は。我々は昔の思い出が重なり合うことはない。しかし、それはたいして問題ではないような気がする。今が合えばそれでいい。
もし、同じクラスだったとしたら、友達になることはなかったかもしれない。それは編集長だってそうだ。勉強も運動も苦手で、社交性の一切を持たない私は、2人に話しかけることすらしなかっただろう。教室の後ろで息を殺して過ごしていた私とは明らかに別のグループにいたんじゃないかなと思う。それでも友達になれるのだから、大人になるってことは尊いのだろう。あの頃よりも世界が広がっていることに感謝したい。彼女は牛乳が嫌いだと言っていた。私の好きな食べ物1位が茄子ということを知っている。ちなみに編集長の好きな食べ物はトマトだ。それだけわかり合えていればもう充分ではないか。それさえ知っていればみんなで美味しくご飯を食べられる。
フェスの前日に朝4時まで飲んでいた私はぐったりしながら会場に向かった。駅で待っていた彼女は私を見るなり、両手を大きく振って出迎えてくれた。声がガサガサの私を咎めることも心配もせず笑っていた。朝まで飲んでいた私が悪いのだから、そのリアクションであってほしい。ちょうどいい距離感だ。私には何ひとつ頼りになる部分なんてないし、彼女より知っていることは昔流行ったことみたいなどうでもいいことしかなくて、恥ずかしいくらい大人な感じを出すことができないのだけれど、それでも笑って遊んでくれる。ありがたい。ちなみに編集長は鮮やか過ぎるほどの蛍光色の帽子を被ってやって来た。浮腫みまくっている私の顔を見て笑っていた。気を遣わなくていい。ちょうどいい距離感だ。
私たちは震えていた。寒すぎるのだ。震えながらスープを飲み、震えながらコーヒーを飲んだ。何を飲んでも全然温かくならない。それでも震えながら音楽を聴いて、震えながら感動した。震えながらお揃いの曽我部恵一のTシャツを買って、サインをしてもらった。同じ日に着ないようにしなくては。お揃いの上に同じ日付のサインは気まずい。ちなみに私と彼女の身長はほぼ同じだ。それでそのTシャツかぶりは頗る気まずい。だけど、意図してお揃いのTシャツを買ったわけではない。ただ欲しいと思うものを買っただけだ。お互いに顔色を伺って遠慮するみたいなことがなくてよかった。そして、音楽の趣味が合うのは私にとってすごく大切なことで、これからも一緒に音楽を聴く関係でもいられたら嬉しいなと思う。
それ以上でも以下でもない、ただ友達という関係。年齢も性別もさしてあまり意味もなく、一緒にいてただただ笑いあえる。そんなシンプルなものであってほしい。だって、のぶ代もわさびも、一緒にaikoを踊ることができる。それだけで日々の生活は充分楽しい。
- Scriptwriter/Writer
- 2025.04.17Column友達の話
- 2023.04.13Column「ごはんのはなし」 by Shimajiri Emi
- 2021.03.22Column不適合家族 by Shimajiri Emi