「桜雨」に聴きたい音楽


はじめまして。
脚本家・演出家の坪田塁です。


90年代に小劇団を旗揚げつつもバンド活動を続け、最初の商業デビューが作詞家。


その後にラジオ番組の構成作家になり、テレビや舞台のコント作家になり、現在では様々な業界を渡り歩いては繋げるような活動をしています。現在バンド活動はしておらず趣味でDJをしています。


私は音楽が好きです。どのくらい好きかと言うと、自分が生業としている演劇やお笑いの世界よりも……そんなふうに言ったら誤解を生むよ!などと言われるかも知れませんが、残念ながら誤解ではないので仕方ありません。


以前に私が関わらせていただいたシティボーイズを観て、お笑いの世界を志した若き芸人さんにお会いして会話の流れからつい「笑いよりも音楽が好き」と伝えたときの、あの悲しそうな瞳は今でも忘れられません。ごめんね。でも好きなの。


どうしてそこまで音楽が好きなのか。無数にあるだろう理由の1つを書かせていただくと、先にも書いたシティボーイズにコントを書き、演出をさせていただいたとき、私は24歳でした。


いきなり総動員数2万人以上というお笑いライブを任され、右も左もわからず、そもそもお客様に笑ってもらえるのかと、ほとんどノイローゼになっていた私を救ってくれたのは真心ブラザーズの「明日はどっちだ!」でした。


「俺はまだ死んでないぜ 未来はまだ輝いてるぜ」


「うるせえな 負けねえぞ 明日はどっちだ」


開演前の楽屋でプレッシャーに押し潰されそうになって、毎日トイレで吐き続けながら、耳にしていたイヤホンからは「明日はどっちだ!」がずっとリピートで鳴っていました。

私がコントや演劇やドラマや──書くこと、作ることができるのは音楽が鼓舞してくれるからだと言っても過言ではないのです。


今日は少しだけ音楽のことを書かせていただければと思います。


ここまで書いて「自分を鼓舞してくれる音楽」をご紹介したほうがいい流れだなとも思ったのですが、今日は暗い気持ちになる雨の日に、その風景に溶け込む、そんな音楽をご紹介させてください。


近頃、また雨が多いですね。

この3月下旬から4月にかけて降る雨を「春雨(はるさめ)」と言うそうで「生命の萌芽に満ちた季節を雨滴で彩るように降り続けながら、新しい年度を迎える雨」を意味するようです。


他にも「春時雨(はるしぐれ)」、「小糠雨(こぬかあめ)」、「桜雨(さくらあめ)」、「春霖(しゅんりん)」などとも言うそうです。

どれも風流な呼び方ですね。
あなたはどれがお好きですか?


私は「桜雨」でしょうか。

桜が咲く頃に降る雨なので「桜雨」というそうですが、日本人ならではの美意識ですね。


国土交通省が実施した日本人の感性(美意識)に関する「国民意識調査」においても、日本人が昔から持っている感性(美意識)について特徴的なものとして、「伝統・文化」(伝統的な文化や風習など)や「自然」(自然を愛でることなど)が上位となっています。


前置きが長くなってしまいましたが、この「桜雨」の頃に聴きたくなる音楽をセレクトしました。


まずはharuka nakamuraの「雨の日のために」。

アルバム「スティルライフ」に収録されている曲です。


私も朝、起きて、雨が降っていると「今日は『雨の日のために』がとても合う日だな」と言葉にすることが多い曲で、haruka nakamuraさんもご自身のブログで、「雨の日の空気がうまく作用して、完成した」と語っています。


この「スティルライフ」というアルバムは、ミュート・ピアノ演奏(haruka nakamuraさんによると「イメージとしては子供たちが家で練習する時に使う、音がほとんど鳴らなくなるピアノ」)で、鍵盤やペダルの音なども取り込まれた録音となっています。


まるで隣で寄り添うように静かに流れる空気のような曲です。

続いてはSławek Jaskułkeの「Park Ⅰ」。

アルバム「Park.Live」に収録されています。


ポーランド・ジャズピアニストSławek Jaskułkeが2019年に行ったパーク・ライブを録音したもので、小鳥のさえずり、港から聞こえる鴎の鳴き声、子供たちの笑い声などがピアノと美しく調和するアルバムです。


この曲は一日中ずっと流していたいと思うほど奇跡的なアルバムなのですが、雨音と合わさるとこれほど気持ちがいいものは他にないというほどに心をほぐしてくれます。


そして横田進の「Song Of The Sleeping Forest」。


アルバム「Symbol」に収録されています。


クラシック音楽の断片をカットアップすることで横田進が追い求める美を描写したアルバムで、「思えば、僕がやってきたことは象徴主義的だった。精霊であったり、天使であったり、魂であったり、そういうものはつねの自分のなかのテーマとしてあった」と語っています。


まさに天界から降り注ぐ天使の歌声のような美しい音楽を、雨の日にも。

ちなみに「Song Of The Sleeping Forest」ではラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」がサンプリングされているのですが、こちらも静かに雨の降る春の日にぴったりの曲です。

続いてもサンプリング・ループによって構築されたアルバムをご紹介させてください。


Jan Jelinekの「moiré (piano & organ)」


アルバム「Loop-finding-jazz-records」に収録されています。


メーカーからのインフォメーションを引用すると、「60年代〜70年代の古いジャズのレコードから秒単位でサンプリングして、”loop-finding modulation wheel”という機材を通して構築するループや、視覚効果のモアレ(規則正しい繰り返し模様を複数重ね合わせた時に、それらの周期のずれにより視覚的に発生する縞模様)を探求して制作された本作」ということですが、そんな小難しいことよりもまずは聴いてみてください。


言うなれば雨の夜の音楽。このアルバム全編に漂うレコードノイズやグリッチノイズはまさに雨の日にこれ以上ないほどにチルさせてくれます。ぜひアルバムを通して聴いてください。


そして最後はこちらの曲を。
Rei Harakamiの「joy」。


アルバム「lust」に収録されています。


言わずと知れたRei Harakamiの名曲です。
雨粒のような、それでいて散る桜をも感じられる軽快なポリリズムの曲で、SC-88proという1996年に発売されたシーケンサーの逆再生を駆使して、多幸感溢れる世界観を構築しています。


ちょっと雨には似合わないのではないかという声が聞こえてきそうですが、Rei Harakamiはインタビューにこう答えています。


「音色から想起させる雰囲気については、僕自身が考えた……というよりも、機材から僕が導き出したモノでしかありません。そこから快楽性を抽出した結果なんだと考えています」


私たちもこの「joy」を聴いて、そこから「桜雨」に相応しい曲だと「快楽性を抽出」して雨の日を最高の「喜び」の日にしようではありませんか。

いかがでしたでしょうか?
私なりにセレクトした「桜雨」に聴きたくなる曲たち。
一曲でも気に入っていただけたら嬉しいです。


そしてよかったらあなたのセレクトした曲も教えてくださいね。


それでは。
素敵な雨の日を。


Top image by haruka nakamura @__CASA→ https://onl.la/BFc4ZL3

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